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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)241号 判決

仙台市青葉区米ケ袋1丁目6番16号

原告

西澤潤一

同訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

河野哲

布施田勝正

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

山川サツキ

中村友之

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  特許庁が平成2年審判第23776号事件について平成4年10月8日にした審決を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、拒絶査定を受け、不服審判請求をして審判請求が成り立たないとの審決を受けた原告が、審決は、本願考案と周知のキーホルダー及び引用例記載の考案との技術的思想の差異を看過して相違点の判断を誤り、また、本願考案の格別な作用効果を看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきであるとして審決の取消を請求した事件である。

一  判断の基礎となる事実

(特に証拠(本判決中において引用する書証はいずれも成立に争いがない。)を掲げない事実は当事者間に争いがない。)

1  特許庁における手続の経緯

財団法人半導体研究振興会は、昭和60年11月13日、名称を「キーホルダー」とする考案(以下「本願考案」という。)について、実用新案登録出願(昭和60年実用新案登録願第175511号)し、昭和61年7月31日原告に対し同出願に係る登録を受ける権利を譲渡し、同年8月4日特許庁長官にその旨届出をしたが、原告は、平成2年11月7日拒絶査定を受けたので、同年12月27日査定不服の審判を請求し、平成2年審判第23776号事件として審理された結果、平成4年10月8日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年11月19日原告に送達された。

2  本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)

電源とスイッチと半導体発光素子を有する本体と、該本体とねじ式によらない保持手段を介して、鍵と一体構造と成しかつ不特定形状の鍵頭盤に対応できることを特徴とするキーホルダー

3  審決の理由の要点

Ⅰ 本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

Ⅱ これに対して、電源とスイッチとランプを有するライトケース本体と、該本体に挟持ホルダーを介して鍵がねじにより保持され、鍵と一体構造と成したキーホルダーは、本件出願前に周知である(昭和58年実用新案出願公開第149986号公報参照)。

そして、本件出願前に頒布された昭和54年実用新案出願公開第10494号公報(以下「引用例1」という。)には、ホルダーケースと発光ダイオードとリチウム電池と手動スイッチとを有する照明付きキーホルダーが図面とともに記載されている。

同じく、昭和57年実用新案出願公開第184630号公報(以下「引用例2」という。)には、前面にベルベットファスナーを形成した保持板体の裏面に縁に取り付けるためのクリップを設け、裏面にベルベットファスナーを形成した小物保持体に小物としてキーを取り付け、ベルベットファスナーを介して保持板体と小物保持体とを一体構造と成した縁装着用小物保持具が図面とともに記載されている。

Ⅲ そこで、本願考案と周知のキーホルダーとを比較すると、両者はともに、電源とスイッチと光源を有する本体と、該本体と保持手段を介して、鍵と一体構造と成したキーホルダーの点で一致する。

しかし、両者は下記の点において相違する。

(1) 光源が、前者は半導体発光素子であるのに対して、後者はランプである点、

(2) 鍵の保持手段が、前者は、ねじ式によらない保持手段であって、不特定形状の鍵頭盤に対応できるのに対して、後者はねじによる挟持ホルダーである点。

Ⅳ そこで、前記(1)の点の相違点について検討すると、引用例1記載のキーホルダーにおいて、光源として使用されている発光ダイオードは、半導体発光素子であり、しかも、同じキーホルダーの技術分野に属するものであるから、キーホルダーの光源として、ランプの代りに半導体発光素子を使用することは当業者がきわめて容易になしうることであると認める。

Ⅴ 相違点(2)の点については、本願明細書(昭和63年11月1日付及び平成3年1月24日付各手続補正書により補正された明細書)には、「本願考案の保持手段は、粘着テープ、クリップ、板バネ等を用いた構成になっている。」(平成3年1月24日付手続補正書(以下において日付を特定しないで単に「手続補正書」というときは、この手続補正書を指す。)3枚目1行ないし5行)と記載され、実施例においては、キーホルダー本体と鍵の両方にベルベットファスナーを形成して、保持手段としてベルベットファスナーを介して、両者を一体構造とする例(第2図)及びキーホルダー本体に保持手段として板バネによるクリップを設けた例(第3図)が示され、さらに、「保持手段5は図示したような板バネ状に限らずクリップ機能を果すものであればどのような構造のものでもよい。」(昭和63年11月1日付手続補正書添附の全文訂正明細書(以下この訂正明細書を単に「訂正明細書」という。)5頁6行ないし8行)と記載されている。

ところで、引用例2には、小物保持具本体と、キーを付設した小物保持体との両方に、ベルベットファスナーを形成して、ベルベットを介して小物保持具本体と小物保持体とを一体構造とする例が記載されており、引用例2記載の考案においては、鍵に直接ベルベットファスナーを形成していないが、ベルベットファスナーにより、すなわち、ねじ式によらない保持手段を介して、鍵を取り付けることが示されているから、鍵に直接ベルベットファスナーを形成して、ベルベットファスナーからなる保持手段を介して、本体と鍵とを一体構造と成すことは当業者がきわめて容易になしうることであると認める。

そして、ベルベットファスナーを形成した面と反対側の面には何もないのであるから、そこが不特定形状の鍵頭盤になっていても対応できることは明らかである。

また、ねじ式によらない保持手段として、明細書に記載された粘着テープは、二つの物体を一体構造とするための最も単純にして簡明な手段であって、種々の使われ方をしていることは周知であるから、鍵を取り付けるために使用する程度のことは当業者が必要に応じて適宜なしうることであり、その際、テープの粘着面と反対側の面には何の影響もないのであるから、そこが不特定形状であっても対応できることは自明である。

さらに、明細書に記載されたクリップや板バネは、ねじ式によらない保持手段として周知、慣用のものであるが、しかし、これらの保持手段は、鍵頭盤の大きさ、形状、厚さによっては、挟持、取付けできない場合が出てくるのは明白であるから、不特定形状の鍵頭盤に対応できないことも明らかである。

してみれば、鍵を挟持ホルダーを介してねじにより取り付ける代りに、ねじ式によらない保持手段を選択することは当業者がきわめて容易になしうることであり、また、不特定形状の鍵頭盤に対応できるということは、格別顕著な効果であるとは認められない。

Ⅵ したがって、本願考案は、周知事実、引用例1及び引用例2に記載された考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。

4  本願明細書に記載された本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果

(この項の認定は甲第2号証、第4、第5号証による。)

(1) 本願考案は、本体と鍵とを一体構造となし、かつ片手で操作が行える携帯可能なキーホルダーに関するもので、特に暗闇の環境下においても簡便に鍵の開閉ができるようにしたキーホルダーに関する(訂正明細書1頁10行ないし14行)。

従来、鍵を携帯して持ち運びする際には、キーホルダー本体に結合された鎖状のものや他の手段を用いた取付部材へ鍵を装着しており、キーホルダーの主体となる本体と鍵は直接に一体化して結合はせずに持ち運んでいたが、暗闇の環境下において鍵の開閉を行う場合には、手さぐりで鍵穴を捜して行わなければならないという不便さがあった。また、鍵穴の照明を行えるものもあるが、照明用のキーホルダー本体と鍵が一体として固定されていないので、両手を使用して照明操作と鍵の開閉操作をする必要があり煩雑であった。また、実際に鍵とキーホルダーを一体化する方法として、これまでのものは、鍵頭盤が平坦な形状のものをネジ止め又は挟持ホルダーとネジ止めの併用等の保持手段が取られてきたが、鍵頭盤が凸状や特殊な形状のものには適用できなかった。本願考案は、これらの点に鑑みて、暗闇の環境下においても簡便に鍵の開閉が行えるキーホルダーを提供すること、あらゆる形状の鍵に取り付けられるキーホルダーを提供することを(同1頁17行ないし2頁13行、手続補正書2枚目10行ないし20行)を技術的課題(目的)とするものである。

(2) 本願考案は、前記技術的課題を解決するために本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)記載の構成(手続補正書2枚目1行ないし9行)を採用した。

(別紙第一第1図ないし第4図参照)

(3) 本願考案は、前記構成により、キーホルダーと鍵とを保持手段を介し一体化し、半導体発光素子により鍵穴を照らすことができるので、暗闇の環境下においても、両手を使用することなく片手で容易に鍵の開閉を行うことができ、工業的価値の極めて高いものを提供することができる(訂正明細書6頁3行ないし8行)という作用効果を奏するものである。

5  周知のキーホルダー、引用例1及び引用例2(なお、引用例2に別紙第二の図面が添附されていることが甲第8号証により認められる。)の技術内容は審決が前記3Ⅱにおいて認定したとおりであり、また、本願考案と周知のキーホルダーとの一致点及び相違点は審決認定のとおりである。

二  争点

原告は、次のとおり、審決は、本願考案と周知のキーホルダー及び引用例2記載の考案との技術的思想の差異を看過して、相違点(2)の判断を誤り、また、本願考案の格別な作用効果を看過して、本願考案は周知のキーホルダー、引用例1及び引用例2記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案できるとの誤った結論を導いたものであって、違法であるから取り消されるべきであると主張し、被告は審決の認定判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない、と主張している。

本件における争点は、上記原告の主張の当否である。

1  取消事由1

審決は、相違点(2)に関し、「引用例2記載の考案においては、鍵に直接ベルベットファスナーを形成していないが、ベルベットファスナーにより、すなわち、ねじ式によらない保持手段を介して、鍵を取り付けることが示されているから、鍵に直接ベルベットファスナーを形成して、ベルベットファスナーからなる保持手段を介して、本体と鍵とを一体構造と成すことは当業者がきわめて容易になしうることである」、と認定判断している。

しかしながら、引用例2記載の小物保持具は、考案の名称等から明らかなように、小物保持具本体をハンドバッグ、かばん、手提げ袋等の縁の部分に固定するもので、鍵は紐や鎖等の中間介在物を介して保持手段に間接的に結合されており、引用例2には、本願考案のようにキーホルダー本体に鍵を直接結合する保持手段を備えることは開示されていないし、これを示唆する記載もない。

一方、本願明細書の、「鍵の開閉に先立って、まず鍵をキーホルダーの本体と保持手段5を介して結合する。但し鍵1個にキーホルダー1個の場合には予め結合してあってもよい。」(訂正明細書3頁3行ないし6行)との記載及び「このようにすれば、必要に応じてキーホルダーに鍵を着脱可能な状態で結合することができる。鍵が複数の場合にはそれぞれの鍵に前もって他方の支持体9’を貼着しておけば必要な鍵を選択して結合し使用することができる。」(訂正明細書4頁13行ないし18行)との記載から明らかなように、本願考案においては、単に鍵とキーホルダーを一体構造とするだけでなく、鍵を用いて開閉を行う直前においてその操作に必要とする鍵を選択してその鍵を直接キーホルダー本体に結合保持させて鍵穴を照明下において片手で操作を行うことを可能とすることを技術的課題(目的)としている。したがって、その技術的課題を達成するために、本願考案では、キーホルダー本体そのものにワンタッチ操作によって鍵を直接結合するための保持手段を設けることを基本的な技術的思想としている。また、携帯するもので鍵の大きさには一定の範囲があるとのキーホルダーの性格からできうるかぎり小型化すべきである。そこで、本願考案では、キーホルダー本体の小型化を図り、しかもワンタッチで取り付けたり、はずしたりできる構造としている。

そして、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「(略)該本体とねじ式によらない保持手段を介して、鍵と一体構造と成しかつ不特定形状の鍵頭盤に対応できる」との記載があるから、本願考案において「ねじ式によらない保持手段」は、照明装置を内蔵するキーホルダー本体に鍵を迅速にしかも簡単な操作で着脱させるための手段として採用されていることが明らかである。鍵を迅速にしかも簡単な操作で着脱させるということは、キーホルダー本体に対して鍵を頻繁に着脱する必要があるからである。また、「不特定形状の鍵頭盤に対応できる」との表現から判断すれば、キーホルダー本体に結合される鍵は複数のものであり、その鍵頭盤の形状はそれぞれ異なったものであることが前提とされている。結局、本願考案は、どのような形状であっても複数の鍵をそれぞれ使い分けてしかも鍵穴を照明した状態で片手で操作して解錠又は施錠することを要旨とするものである。

このような複数の鍵をキーホルダー本体に簡単な操作で交換し取り付けキーホルダーと一体構造として使用する技術的思想は、引用例2記載の考案にはない。また、周知のキーホルダーにも、このような技術的思想はない。

したがって、周知のキーホルダーに引用例2記載の考案を適用して相違点(2)に係る本願考案の構成を想到することは、当業者であってもきわめて容易なこととはいえないから、審決の上記認定判断は誤りである。

2  取消事由2

本願考案は、一つのキーホルダー本体によって多くの鍵のうち、解錠又は施錠に必要なものを選択的にキーホルダー本体に直接結合できるので、暗闇の環境下においても錠の解錠、施錠を簡便に行え、特に解錠又は施錠を行う直前において使用する鍵を選んで極めて簡単な操作で迅速にキーホルダー本体に直接結合できるので、解錠又は施錠に手数や時間を要するなどの支障を来すことがない。そして、不特定形状の鍵頭盤を持つ鍵等を含む複数の鍵を互換性を持たせてキーホルダー本体に直接結合できるので、その適用範囲は拡大されたものとなる。また、鍵が複数の場合、一つ一つの鍵に照明装置を付ければ当然重量、容積が増してしまう欠点があるが、本願考案のように着脱可能とすることにより、これらの欠点は一挙に解決できる。さらに、周知のキーホルダーのようにキーホルダーの支持体とねじで結合したものでは、鍵が複数の場合には、一々必要な鍵をドライバー等を用いて交換しなければならず、時間がかかるばかりでなく、薄暗い場所や取付け作業をする場所がないような場合には交換が困難となるが、本願考案では、このような欠点がない。

本願考案には、これらの格別の作用効果があるのに、審決は、これらの作用効果を看過したため、周知のキーホルダー、引用例1及び引用例2記載の考案から当業者がきわめて容易に考案することができたとの結論を導いたもので、その判断は誤りである。

第三  争点に対する判断

一  取消事由1について

1  本願考案と周知のキーホルダーとが、電源とスイッチと光源を有する本体と、該本体と保持手段を介して、鍵と一体構造と成したキーホルダーの点で一致することは、前記のとおり当事者間に争いがない。そして、引用例2に、前記第二の一3Ⅱ記載の技術内容が記載されていることも当事者間に争いがなく、引用例2には、鍵を取り付けた小物保持体にベルベットファスナーを形成したうえ同じくベルベットファスナーを形成した保持板体とベルベットファスナーを介して一体構造とした縁装着用小物保持具が記載されており、ねじ式によらずベルベットファスナーを用いて鍵を取り付ける技術が開示されている。したがって、鍵と一体構造の周知のキーホルダーに、引用例2記載のベルベットファスナーを用いて鍵を取り付ける技術を適用して、キーホルダー本体だけでなく、鍵にも直接ベルベットファスナーを形成してキーホルダー本体と鍵とを一体構造とすることは当業者であればきわめて容易になしうることといわなければならず、この点に関する審決の認定判断に誤りはない。

2  原告は、引用例2記載の考案において鍵が中間介在物を介して保持手段に間接的に結合され、キーホルダー本体に鍵を直接結合することは開示されておらず、それを示唆する記載もないとして、審決の誤りを主張する。

しかし、前記第二の一3のとおり、審決は、鍵とキーホルダー本体とを一体構造にすることを本願考案と周知のキーホルダーとの一致点として明確に示したうえ、引用例2記載の考案を、キーホルダー本体と鍵とを取り付けるのにねじ式によらない保持手段であるベルベットファスナーを用いる技術として引用しているにすぎない。他方、本件全証拠によっても、この技術を鍵とキーホルダーとの直接結合の場面に適用することを妨げる理由があるとは認められない。

したがって、この主張は理由がない。

3  次いで、原告は、本願考案は、単に鍵とキーホルダーとを一体構造とするだけでなく、キーホルダー本体の小型化を図り、そのうえ鍵の使用直前にどのような形状であっても複数の鍵をそれぞれ使い分け、必要な鍵を選択して直接キーホルダー本体そのものにワンタッチ操作によって迅速にしかも簡単な操作で着脱させかつ結合保持させ照明下において片手で鍵の操作を行うことを可能とすることを基本的な技術的思想とするものであって、このような技術的思想は、引用例2記載の考案にも周知のキーホルダーにもない、と主張する。

しかしながら、まず、前記2のとおり、審決において引用例2記載の考案はキーホルダー本体と鍵とを取り付けるのにベルベットファスナーを用いる技術として引用されたにすぎず、そのような趣旨において引用例2記載の考案を引用することを上記の原告主張に係る事実が妨げるとはいえない。

また、周知のキーホルダーは、前記第二の一3Ⅱ記載の構成のものであることは争いがなく、その技術内容から考えれば、キーホルダー本体を小型化して携帯可能とし、また照明下で片手で鍵の操作ができることを技術的課題(目的)としてこれを達成するため鍵とキーホルダーとを一体構造の構成としたものであってこの構成によりキーホルダー本体を小型化して携帯可能とし、また照明下で片手で鍵の操作ができるという作用効果が奏されることは明らかであり、この点で周知のキーホルダーと本願考案とは技術的思想において共通するというべきである。

そこで、原告が周知のキーホルダーにない本願考案の技術的思想とするもののうちその余の点について検討してみる。

本願明細書記載の本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、前記第二の一4(1)ないし(3)記載のとおりであるところ、本願考案の技術的課題(目的)に関する記載(原告が本願考案の技術的思想として主張する上記記載以外の点は、本願明細書に技術的課題(目的)に関連して明記はされていない。)に基づいて本願考案と周知のキーホルダーとの技術的課題(目的)を対比すると、上記認定の周知のキーホルダーの技術的課題(目的)と共通なもの以外で本願明細書が明示的に記載する本願考案の技術的課題(目的)は、キーホルダーが鍵頭盤が凸状や特殊な形状のものなどあらゆる形状の鍵にも取り付けられることを可能とする点、すなわち審決が判断を加えた相違点(2)の構成に係るもののみであることが明らかにされている。

そして、甲第4、第5号証と前記第二の一2及び4の事実によれば、本願考案の要旨は、「電源とスイッチと半導体発光素子を有する本体と、該本体とねじ式によらない保持手段を介して、鍵と一体構造と成しかつ不特定形状の鍵頭盤に対応できることを特徴とするキーホルダー」というものであり、また、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には、「但し鍵1個にキーホルダー1個の場合には予め結合してあってもよい。」(訂正明細書3頁4行ないし6行)との記載及び「鍵の保持手段は(中略)本体の内部、外部を問わずに一体成形された構造のものでもよい。」(訂正明細書5頁17行ないし6頁1行、手続補正書3枚目11行ないし12行)との記載があることが認められる。この認定事実によれば、複数の鍵を着脱して使い分けること、まして鍵の使用直前に鍵を結合保持することなど全く考えないで、その構造のまま使い続けることを前提として鍵の使用に先立って鍵とキーホルダー本体とを一体構造とするものも、本願考案の具体的態様に含まれ、本願考案の要旨はそのような態様をも排除しないことが明らかである。

そうすると、原告が本願考案が周知のキーホルダーと技術的思想において異なると主張するところは、実は周知のキーホルダーと共通するもの及び相違点(2)の構成に係るものを除けば、本願考案の技術的課題(目的)として本願明細書に記載されていないものであり、しかも、本願考案に含まれる具体的態様の一部と明らかに相容れないものである。

以上のとおりであるから、原告の主張は、結局失当というほかはない。

二  取消事由2について

本願考案は、その技術内容に照らし、本願明細書記載のとおりの作用効果(前記第二の一4(3))を奏するものと認められる。

原告は、本願考案は、さらに多くの鍵のうち必要なものを選択的にキーホルダー本体に直接結合でき、特に使用する直前に使用する鍵を選んで極めて簡単な操作で迅速にキーホルダー本体に直接結合でき、また、鍵が複数でも一つ一つの鍵に照明装置を付ける必要がないので重量、容積を増さないですむし、一々必要な鍵をドライバー等を用いて交換しないですむ作用効果がある、と主張する。

しかしながら、前記一3において検討したとおり、その構造のまま使い続けることを前提として鍵の使用に先立って鍵とキーホルダー本体とを一体構造とするものも本願考案の具体的態様中に含まれ、この態様では複数の鍵を選択的に着脱して使い分けること、まして鍵の使用直前に鍵を選んで結合保持することなどの作用効果は全くないことが明らかであり、本願考案に当然に上記のような作用効果があるとはいえないから、上記主張は失当である。

また、原告は、本願考案により不特定形状の鍵頭盤を持つ鍵をキーホルダー本体に直接結合できる作用効果がある、と主張する。

甲第5号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の欄には「本考案の保持手段は、粘着テープ、クリップ、板バネ等を用いた構成になっている。」(手続補正書3枚目1行ないし5行)との記載があることが認められ、本願考案において、キーホルダー本体と鍵との保持手段として粘着テープを用いた場合、テープの粘着面と反対側の面がどのような形状であっても対応できるから、本願考案は、不特定形状の鍵頭盤を持つ鍵をキーホルダー本体に直接結合できるという作用効果を奏することは、当業者に自明のことといえる。

しかしながら、引用例2記載の考案はベルベットファスナーを形成した面と反対の面には何も設けないものであるから不特定形状の鍵頭盤にも対応できるものであり、周知のキーホルダーに引用例2記載の前記技術を適用すること (この構成がきわめて容易に想到できることは前記一に認定判断したとおりである。)により、不特定形状の鍵頭盤を持つ鍵をキーホルダー本体に直接結合できるという作用効果を奏しうることは当業者が通常予測しうるものにすぎず、これをもって格別顕著な作用効果とすることはできない。

したがって、原告の上記の主張も理由がない。

そうすると、審決が本願考案の作用効果を看過したとすべき謂れはなく、取消事由2の主張は失当である。

三  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきである。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第一

〈省略〉

〈省略〉

別紙第二

〈省略〉

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